- 新開発された自然吸気6.5リッター65°V12エンジンの最高出力は1,000bhp
- レブリミットはレーシング・エンジン並みの11,100rpm
- コスワースがF1で蓄積したノウハウ、素材、メソッドを惜しみなく投入して共同開発
- シャシーの一部として機能するエンジンの単体重量はわずか206kg
- 排ガス規制および耐久性に関する目標をすべてクリア
2018年12月12日、ゲイドン(英国):
アストンマーティンのハイパーカー、Valkyrie(ヴァルキリー)に搭載されるV12エンジンの開発は順調に進行しています。今回、ベールに包まれていたその驚異的なパワーユニットのスペックの一部が公開されました。長年の技術パートナーであるコスワースと共同開発したV12エンジンには、究極の内燃エンジンを開発するという、単純かつ極めて明快な目標が設定されました。
このプログラムは、当初から自然吸気エンジンを前提として開発が進められました。現在、ターボチャージャーは時代の要求を背景に全盛期を迎え、とくに量産車では幅広いエンジンに採用されています。その反面で、非常に高いスキルを備えたドライバーは、パフォーマンス、エキサイトメント、エモーショナルな面で、絶対的な頂点に君臨するエンジンを求めています。つまり、一切の妥協を排した自然吸気エンジンです。
開発されたエンジンは、最高傑作と呼ぶにふさわしい仕上がりを誇っています。6.5リッター65°V12エンジンは、並外れた新基準を設定しています。最高出力は驚異的な1,000bhp/10,500rpm(リッターあたり出力:153.8bhp)です。最高回転数は、排ガス規制に適合し、公道走行可能なクルマに搭載されるエンジンとしては異例の11,100rpmに達します。最大トルクは、740Nm/7,000rpmです。これらの性能値は、純粋に内燃エンジンが発生する数値です。Valkyrieには、バッテリー・ハイブリッド・システムが搭載されるため、その総合的なパフォーマンス値は、さらに強化されることになります。ハイブリッド・システムに関する詳細は、後日改めて発表される予定です。
コスワースがF1で培ってきた専門技術は、エンジンの重量だけを見ても明確に証明されています。このエンジンは、完全にシャシーの一部として機能するための剛性を備えているだけでなく(エンジンを取り外すと、前輪と後輪を接続するコンポーネントは一切なくなります)、燃焼システムには高度なテクノロジ-が採用されているため、重量の削減は大きな挑戦でした。特に今回のプログラムでは、長期的な素材特性が証明されていない新しい合金を使用することを意図的に避けたことにより、そのハードルはさらに高いものとなりました。
エンジンブロック、シリンダーヘッド、オイルサンプ、カムカバー構造体といった主要部品には鋳造コンポーネントを採用し、主なエンジン内部部品には、金属の塊を削り出したコンポーネントを使用しています。これには、チタニウム製のコンロッドとF1TM仕様のピストンが含まれます。これにより、理想的な特性を備えた素材の使用が可能になるだけでなく、超高精細な機械加工プロセスによって、より安定した品質が実現し、質量に対する強度を最適化することが可能になりました。その結果、エンジン単体重量は、わずか206kgに抑えられています。比較対象として、(FIAによって重量制限が課される前の)コスワース製3.0リッターV10 F1TMエンジンの重量は97kgでした。もしこれを、6.5リッターにスケールアップした場合、この純粋なレーシング・エンジンの重量は210kgになるでしょう。
特に注目すべきコンポーネントは、ビレット(金属の塊)から削り出したクランクシャフトです。直径170mm、長さ775mmのスチール製の棒から加工したこのクランクシャフトは、最初に荒削りが実施された後、熱処理され、機械加工され、さらに熱処理され、ギヤが削り出され、最終の削り出し加工が行われ、さらに仕上げ処理が施されます。1本のシャフトが完成するまでに、約6ヶ月の歳月をかけてオリジナルの金属棒の80%が削り取られます。このようにして完成したシャフトは、Aston Martin One-77のV12エンジンに使用されているシャフトより50%も軽量です。コスワースがアストンマーティンのスーパーカー、One-77のために開発したV12エンジンは、その当時、量産車に搭載される自然吸気エンジンとしては、世界でもっともパワフルな性能を誇っていました。
コスワースのマネージング・ディレクターを務めるブルース・ウッドは、次のようにコメントしています。「史上最高のハイパーカーに搭載するこの自然吸気V12エンジンは、コスワースの誇りとプライドをかけて開発したものです。長年にわたってF1TMの世界に携わってきた中で、エイドリアン・ニューウェイの卓越した戦歴が物語っているように、自らに厳しい目標を課すことを学んできました。しかし、この新しいV12エンジンのパワー、重量、排ガス規制、耐久性に関する非常に高く、ときには矛盾したスペックについて検討を始めたとき、このプロジェクトがこれまでになく困難なチャレンジになることが分かりました。アストンマーティン、レッドブル、そしてコスワースは、素晴らしいパートナーシップを発揮しました。各パートナーは、ロードカーに搭載可能な、これまで見たこともないような内燃エンジンを開発するという、明確なビジョンを持ってこの仕事に取り組みました。」
アストンマーティン・ラゴンダ社長兼グループ最高経営責任者(CEO)のDr. アンディ・パーマーは、ValkyrieのV12エンジンについて次のように述べています。「たとえ一滴でも血管にガソリンが流れている者であれば、高回転型の自然吸気V12こそが、絶対的な頂点に君臨するエンジンだと考えるでしょう。素晴らしいサウンドを楽しみ、エモーショナルでエキサイティングな感動を味わうことができるのは、内燃エンジンをおいて他にありません。大きな困難に直面したものの、アストンマーティンValkyrieに搭載するエンジンはこれしかないという気持ちに、疑問の余地はありませんでした。コスワースのチームは、プログラムの当初から、新たなベンチマークを達成するという強い決意を貫き、可能性の限界を押し広げました。その結果、この驚異的なエンジンが完成しました。これを超えるエンジンが登場することは決してないでしょう。」
このエンジンは、1990年代の超高回転型F1TMエンジンを彷彿とさせますが、20年間で進化した設計手法、素材、製造工程を採用することにより、1,000bhpを発生するアストンマーティンValkyrieのV12は、世界有数のエンジン・ビルダーであるコスワースによって製作された最高傑作となり、前例のないハイパーカーのために生まれた、類まれな内燃エンジンに仕上がっています。